新改訳新約聖書 1965
マタイの福音書 26
1 イエスは、これらの話をすべて終えると、弟子たちに言われた。
2 「あなたがたの知っているとおり、二日たつと過越の祭りになります。人の子は十字 架につけられるために引き渡されます。」
3 そのころ、祭司長、民の長老たちは、カヤパという大祭司の家の庭に集まり、
4 イエスをだまして捕え、殺そうと相談した。
5 しかし、彼らは、「祭りの間はいけない。民衆の騒ぎが起こるといけないか ら。」と話していた。
6 さて、イエスがベタニヤで、らい病人シモンの家におられると、
7 ひとりの女がたいへん高価な香油のはいった石膏のつぼを持ってみもとに来て、食 卓に着いておられたイエスの頭に香油を注いだ。
8 弟子たちはこれを見て、憤慨して言った。「何のために、こんなむだなことをするの か。
9 この香油なら、高く売れて、貧乏な人たちに施しができたのに。」
10 するとイエスはこれを知って、彼らに言われた。「なぜ、この女を困らせるので す。わたしに対してりっぱなことをしてくれたのです。
11 貧しい人たちは、いつもあなたがたといっしょにいます。しかし、わたしは、いつも あなたがたといっしょにいるわけではありません。
12 この女が、この香油をわたしのからだに注いだのは、わたしの埋葬の用意をしてくれ たのです。
13 まことに、あなたがたに告げます。世界中のどこででも、この福音が宣べ伝えられ る所なら、この人のした事も語られて、この人の記念となるでしょう。」
14 そのとき、十二弟子のひとりで、イスカリオテ・ユダという者が、祭司長たちのとこ
ろへ行って、
15 こう言った。「彼をあなたがたに売るとしたら、いったいいくらくれますか。」する と、彼らは銀貨三十枚を彼に支払った。
16 そのときから、彼はイエスを引き渡す機会をねらっていた。
17 さて、種なしパンの祝いの第一日に、弟子たちがイエスのところに来て言った。「過 越の食事をなさるのに、私たちはどこで用意をしましょうか。」
18 イエスは言われた。「都にはいって、これこれの人のところに行って、『先生が「わ たしの時が近づいた。わたしの弟子たちといっしょに、あなたのところで過越を守ろ う。」と言っておられる。』と言いなさい。」
19 そこで、弟子たちはイエスに言いつけられたとおりにして、過越の食事の用意をし た。
20 さて、夕方になって、イエスは十二弟子といっしょに食卓に着かれた。
21 みなが食事をしているとき、イエスは言われた。「まことに、あなたがたに告げま す。あなたがたのうちひとりが、わたしを裏切ります。」
22 すると、弟子たちは非常に悲しんで、「主よ。まさか私のことではないでしょ う。」とかわるがわるイエスに言った。
23 イエスは答えて言われた。「わたしといっしょに鉢に手を浸した者が、わたしを裏 切るのです。
24 確かに、人の子は、自分について書いてあるとおりに、去って行きます。しかし、 人の子を裏切るような人間はのろわれます。そういう人は生まれなかったほうがよかった のです。」
25 すると、イエスを裏切ろうとしていたユダが答えて言った。「先生。まさか私のこと ではないでしょう。」イエスは彼に、「いや、そうだ。」と言われた。
26 また、彼らが食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福して後、これを裂き、 弟子たちに与えて言われた。「取って食べなさい。これはわたしのからだです。」
27 また杯を取り、感謝をささげて後、こう言って彼らにお与えになった。「みな、こ の杯から飲みなさい。
28 これは、わたしの契約の血です。罪を赦すために多くの人のために流されるもので す。
29 ただ、言っておきます。わたしの父の御国で、あなたがたと新しく飲むその日まで は、わたしはもはや、ぶどうの実で造った物を飲むことはありません。」
30 そして、賛美の歌を歌ってから、みなオリーブ山へ出かけて行った。
31 そのとき、イエスは弟子たちに言われた。「あなたがたはみな、今夜、わたしのゆえ につまずきます。『わたしが羊飼いを打つ。すると、羊の群れは散り散りにな る。』と書いてあるからです。
32 しかしわたしは、よみがえってから、あなたがたより先に、ガリラヤへ行きます。」
33 すると、ペテロがイエスに答えて言った。「たとい全部の者があなたのゆえにつまず いても、私は決してつまずきません。」
34 イエスは彼に言われた。「まことに、あなたに告げます。今夜、鶏が鳴く前に、あな たは三度、わたしを知らないと言います。」
35 ペテロは言った。「たとい、ごいっしょに死ななければならないとしても、私は、あ なたを知らないなどとは決して申しません。」弟子たちはみなそう言った。
36 それからイエスは弟子たちといっしょにゲツセマネという所に来て、彼らに言われ た。「わたしがあそこに行って祈っている間、ここにすわっていなさい。」
37 それから、ペテロとゼベダイの子ふたりとをいっしょに連れて行かれたが、イエス は悲しみもだえ始められた。
38 そのとき、イエスは彼らに言われた。「わたしは悲しみのあまり死ぬほどです。ここ を離れないで、わたしといっしょに目をさましていなさい。」
39 それから、イエスは少し進んで行って、ひれ伏して祈って言われた。「わが父よ。で きますならば、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの願うように ではなく、あなたのみこころのように、なさってください。」
40 それから、イエスは弟子たちのところに戻って来て、彼らの眠っているのを見つ け、ペテロに言われた。「あなたがたは、そんなに、一時間でも、わたしといっしょ に目をさましていることができなかったのか。
41 誘惑に陥らないように、目をさまして、祈っていなさい。心は燃えていても、肉 体は弱いのです。」
42 イエスは二度目に離れて行き、祈って言われた。「わが父よ。どうしても飲まずに は済まされぬ杯でしたら、どうぞみこころのとおりをなさってください。」
43 イエスが戻って来て、ご覧になると、彼らはまたも眠っていた。目をあけていること ができなかったのである。
44 イエスは、またも彼らを置いて行かれ、もう一度同じことをくり返して三度目の祈り をされた。
45 それから、イエスは弟子たちのところに来て言われた。「まだ眠って休んでいるので すか。見なさい。時が来ました。人の子は罪人たちの手に渡されるのです。
46 立ちなさい。さあ、行くのです。見なさい。わたしを裏切る者が近づきました。」
47 イエスがまだ話しておられるうちに、見よ、十二弟子のひとりであるユダがやっ て来た。剣や棒を手にした大ぜいの群衆もいっしょであった。群衆はみな、祭司 長、民の長老たちから差し向けられたものであった。
48 イエスを裏切る者は、彼らと合図を決めて、「私が口づけをするのが、その人だ。そ の人をつかまえるのだ。」と言っておいた。
49 それで、彼はすぐにイエスに近づき、「先生。お元気で。」と言って、口づけした。
50 イエスは彼に、「友よ。何のために来たのですか。」と言われた。そのとき、群 衆が来て、イエスに手をかけて捕えた。
51 すると、イエスといっしょにいた者のひとりが、手を伸ばして剣を抜き、大祭司のし もべに撃ってかかり、その耳を切り落とした。
52 そのとき、イエスは彼に言われた。「剣をもとに納めなさい。剣を取る者はみ な剣で滅びます。
53 それとも、わたしが父にお願いして、十二軍団よりも多くの御使いを、今わたしの配 下に置いていただくことができないとでも思うのですか。
54 だが、そのようなことをすれば、こうならなければならないと書いてある聖書が、ど うして実現されましょう。」
55 そのとき、イエスは群衆に言われた。「まるで強盗にでも向かうように、 剣や棒を持ってわたしをつかまえに来たのですか。わたしは毎日、宮ですわって教えてい たのに、あなたがたは、わたしを捕えなかったのです。
56 しかし、すべてこうなったのは、預言者たちの書が実現するためです。」そのとき、 弟子たちはみな、イエスを見捨てて、逃げてしまった。
57 イエスをつかまえた人たちは、イエスを大祭司カヤパのところへ連れて行った。そこ には、律法学者、長老たちが集まっていた。
58 しかし、ペテロも遠くからイエスのあとをつけながら、大祭司の中庭まではいっ て行き、成り行きを見ようと役人たちといっしょにすわった。
59 さて、祭司長たちと全議会は、イエスを死刑にするために、イエスを訴える偽 証を求めていた。
60 偽証者がたくさん出て来たが、証拠はつかめなかった。しかし、最後にふたり
の者が進み出て、
61 言った。「この人は、『わたしは神の神殿をこわして、それを三日のうちに建て直せ る。』と言いました。」
62 そこで、大祭司は立ち上がってイエスに言った。「何も答えないのですか。この人た ちが、あなたに不利な証言をしていますが、これはどうなのですか。」
63 しかし、イエスは黙っておられた。それで、大祭司はイエスに言った。「私は、生け る神によって、あなたに命じます。あなたは神の子キリストなのか、どうか。その答え を言いなさい。」
64 イエスは彼に言われた。「あなたの言うとおりです。なお、あなたがたに言っておき ますが、今からのち、人の子が、力ある方の右の座に着き、天の雲に乗って来るのを、あ なたがたは見ることになります。」
65 すると、大祭司は、自分の衣を引き裂いて言った。「神への冒涜だ。これでもまだ、 証人が必要でしょうか。あなたがたは、今、神をけがすことばを聞いたのです。
66 どう考えますか。」彼らは答えて、「彼は死刑に当たる。」と言った。
67 そうして、彼らはイエスの顔につばきをかけ、こぶしでなぐりつけ、また、他の者た
ちは、イエスを平手で打って、
68 こう言った。「当ててみろ。キリスト。あなたを打ったのはだれか。」
69 ペテロが外の中庭にすわっていると、女中のひとりが来て言った。「あなたも、ガリ ラヤ人イエスといっしょにいましたね。」
70 しかし、ペテロはみなの前でそれを打ち消して、「何を言っているのか、私にはわか らない。」と言った。
71 そして、ペテロが入口まで出て行くと、ほかの女中が、彼を見て、そこにいる人々 に言った。「この人はナザレ人イエスといっしょでした。」
72 それで、ペテロは、またもそれを打ち消し、誓って、「そんな人は知らな い。」と言った。
73 しばらくすると、そのあたりに立っている人々がペテロに近寄って来て、「確か に、あなたもあの仲間だ。ことばのなまりではっきりわかる。」と言った。
74 すると彼は、「そんな人は知らない。」と言って、のろいをかけて誓い始めた。する とすぐに、鶏が鳴いた。
75 そこでペテロは、「鶏が鳴く前に三度、あなたは、わたしを知らないと言いま す。」とイエスの言われたあのことばを思い出した。そうして、彼は出て行って、激し く泣いた。